
ワン
ゆっけさん、家畜保健衛生所って「地味だけど面白い職場」って言ってましたよね。それでも辞めたくなるものなんですか?

ゆっけ
なります。しかも理由のほとんどが、自分の努力ではどうにもならないところにあります。先に言っておくと、私自身は家保が合っていました。
正直に書きます。
私は家保を「辞めたくて」辞めたわけではありません。
現場と行政の両方が見える職場で、自分にはよく合っていました。
それでも、辞めたくなる理由は分かります。
合っていた人間の目から見ても、いまの家保には「これはしんどいだろうな」と思う部分があるからです。
📌 この記事の結論
- 辞めたい理由が防疫の比重なら、異動しても変わらない
- 家保はいま、特定家畜伝染病の対応に時間の多くを取られている
- そのぶん、病性鑑定や農家さんとのやりとりが薄くなっている
- 一方で、人間関係・配属先は職場が変われば変わる
- まず「自分が嫌なのはどっちか」を分けてから決める
結論:「防疫の比重」がしんどいなら、異動では変わりません
先に、いちばん大事なところを書きます。
家保を辞めたくなる理由は、大きく2つに分かれます。
| しんどさ | 異動したら? |
|---|---|
| 防疫の比重が大きく、本来の仕事ができない | ❌ 変わらない |
| 手当金の計算など、防疫後の残務処理 | ❌ 変わらない |
| 職場の人間関係 | ⭕️ 変わる |
| 県庁に行くと事務ばかりになる | ⭕️ 変わる(ただし選べない) |
❌ は国内の情勢で決まっていることです。どこの県の家保へ行っても、いま起きていることは同じです。
⭕️ はその職場・その配属で決まることです。

ワン
上の2つは、県を変えても同じなんですね。

ゆっけ
そうです。鳥インフルエンザや豚熱が落ち着かない限り、家保の仕事の中身は戻りません。ここが不満の中心なら、家保の中で解決するのは難しいです。
家保はいま、「特定家畜伝染病の職場」になっています
家保=特定家畜伝染病の予防をする職場——そう言っても過言ではないくらいです。
理由は2つあります。
ひとつは、産業動物の獣医師が業界全体で足りていないこと。
もうひとつは、鳥インフルエンザや豚熱の対応業務が増えていることです。
この2つが重なって、家保の仕事は防疫に寄っていきました。
通常の検査まで、手が回りにくくなっています
本来、家保の仕事は防疫だけではありません。
牛伝染性リンパ腫をはじめとした病性鑑定——つまり「この家畜はなぜ具合が悪いのか」を調べる仕事があります。
ところが、防疫で手いっぱいになると、こちらに割ける時間が減ります。

ワン
やりたかった仕事ができなくなる、ということですか。

ゆっけ
そこが大きいと思います。農家さんと一緒に病気の原因を探って、次の対策を考える——その時間が減っていくのは、家保の魅力そのものが薄くなるということなので。
家保がどんな職場なのかは、1日の流れでまとめています。
防疫作業の本当の大変さは、終わったあとに来ます
鳥インフルエンザや豚熱が出ると、殺処分の作業が始まります。
防護服を着て、何日も現場に入る。体力的にきつい仕事です。
ただ、しんどいのは殺処分そのものだけではありません。
手当金の計算と、そのあとの残務処理
手当金というのは、殺処分された家畜の所有者——つまり農家さんに支払われるお金のことです。
家畜伝染病予防法にもとづく制度で、殺処分される前の評価額の5分の4が交付されます。
さらに口蹄疫・豚熱・アフリカ豚熱・高病原性鳥インフルエンザなどは別枠です。
特別手当金とあわせて、原則として評価額の全額が交付されます。
つまり、農家さんの生活を立て直すためのお金です。
だからこそ、適当には決められません。
何頭いたのか。どの区分で、いくらと評価するのか。
この計算と書類の処理に、かなりの時間がかかります。
現場が終わっても、仕事は終わらない。ここが外からは見えにくい部分です。
防疫作業は「現場がきつい仕事」だと思われがちです。
実際には、終わったあとの事務処理のほうが長く続きます。
ここに何週間も取られると、本来の検査や農場への関わりが後回しになります。
「県庁に異動すれば」と考える前に
公務員獣医師には、家保のほかに県庁勤務という道もあります。
ただし、ここは知っておいてください。
県庁は家保よりかなり忙しく、しかもほぼ事務作業がメインです。
家畜と関わる機会は、家保よりさらに減ります。
「防疫がしんどいから異動したい」という理由で県庁を希望すると、もっと家畜から遠ざかることになりかねません。
しかも公務員は、配属先を自分で選べません。
このあたりの事情は、公務員獣医師全体の話としてまとめています。
人間関係で辞める人は、実際にいます
ここは、防疫とはまったく別の話です。
私の周りにも、職場になじめず、人間関係が嫌になって辞めた人がいました。
家保は、ひとつの施設にいる獣医師が数人という小さな職場です。
合わない人がいても、部署を移って距離を取る、ということがしにくい。
逃げ場がない分、人間関係の重さは他の職場より大きくなりがちです。

ワン
これは、職場が変われば解決するほうですか?

ゆっけ
はい。人の問題は、その職場だけの話です。別の自治体に移れば、まったく違う顔ぶれになります。ここで辞めるかどうかを決めるのは、少し早いかもしれません。
人間関係のしんどさそのものについては、こちらに書きました。
参考:私が「辞めた」のは、家保ではなく保健所でした
比較のために、私の実例を書いておきます。
新卒で配属されたのは保健所でした。そして、そこは辞めました。
理由は2つです。
ひとつは、クレーム対応が多く、精神的に疲れたこと。
猫への餌やりの苦情、飲食店で食べたもので腹を壊したという相談——そういった対応が業務の多くを占めていました。
もうひとつは、獣医学の知識をあまり活かせないと感じたことです。
個人的には、物足りない職場でした。
同じ公務員獣医師でも、保健所と家保ではしんどさの中身がまったく違います。
保健所は「人を相手にする消耗」。
家保は「やりたい仕事に手が回らない消耗」。
自分がどちらに耐えられないのかで、選ぶ道は変わります。
保健所で働く1日の流れは、こちらにまとめています。
それでも、私は家保が好きでした
辞める話ばかり書いてきたので、続ける側の話も正直に書きます。
私にとって家保は、よく合った職場でした。
解剖して、原因を探るのが面白い
具合の悪い家畜を解剖して、何が起きていたのかを調べる。
細菌検査やウイルス検査をかけて、原因にたどり着く。
この過程が、純粋に面白かったです。
そして原因が分かれば、農家さんと一緒に次の対策を考えられます。
農家さんに感謝してもらえたときは、やっていてよかったと思いました。
診る家畜の種類が多い
鶏、豚、馬、牛、みつばち。
家保では、いろいろな家畜を診ることができます。
私はNOSAI時代に牛しか診てこなかったので、他の家畜を診られるのが単純に楽しかったです。
教科書に載っていない病気を、実際に見られる
病気の情報は、常に新しくなっていきます。
家保にいると、教科書で読んだだけの病気を、実際の現場で見ることになります。
私は、気になったことをその都度ウェブでも調べて、取り入れられそうなものは取り入れるようにしていました。

ゆっけ
情報を更新し続けられる職場でした。知識が増えていく実感がある仕事って、意外と多くないと思います。
辞めると決めたら、行き先はどこか
仕分けをしたうえで「それでも辞める」となったら、行き先は主に3つです。
| 行き先 | こんな人に |
|---|---|
| 別の自治体の家保 | 人間関係・配属だけが問題なら、いちばん近い道 |
| 産業動物臨床 | 家畜にもっと近いところで働きたいなら |
| 企業(製薬・飼料・食品・畜産関連) | 年収を上げたい、検査の知識を活かしたいなら |
公務員で身につけた検査の知識は、企業でそのまま武器になります。
製薬会社にも食品メーカーにも、検査の部署があるからです。
一度辞めても、公務員には戻れます。
獣医師が足りていないので、60歳前後まで受験できる自治体が過半数です。
まとめ:辞めたい理由が「防疫」なら、家保の中では解決しません
- 家保はいま、特定家畜伝染病の対応に時間の多くを取られている
- 背景は産業動物獣医師の人手不足と、鳥インフルエンザ・豚熱の増加
- そのぶん病性鑑定や農家さんとのやりとりが薄くなっている
- 防疫は現場だけでなく、手当金の計算などの残務処理が長く続く
- ここが不満の中心なら、異動しても変わらない
- 逆に人間関係・配属先なら、職場が変われば変わる
- 県庁への異動は、家畜からさらに遠ざかるので注意

ゆっけ
私は家保が合っていました。それでも、いまの家保が「入ったときに想像した仕事」と違うなら、それは我慢する話ではないと思います。
まずは、自分が嫌なのが制度で決まっていることなのか、その職場のことなのかを分けてみてください。
そこが分かれば、辞めるか続けるかは自然に決まります。
※ 本記事は、私が家畜保健衛生所と保健所で働いた経験、および周囲で見聞きした話をもとに構成しています。業務の比重や忙しさは、自治体・年度・発生状況によって大きく異なります。









