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獣医師のリアル

家畜保健衛生所を辞めたい|防疫に追われて、本来の仕事ができない

家畜保健衛生所を辞めたい。鳥インフルエンザや豚熱の防疫で手いっぱいになり、病性鑑定や農家さんとのやりとりができない——家保で働き、いまは畜産の仕事に移った現役獣医師ゆっけが、しんどさの中身を「異動で変わること/変わらないこと」に仕分けします。

📅⏱約9分で読めます
#家畜保健衛生所#公務員獣医師#防疫#辞めたい#転職
家畜保健衛生所を辞めたい|防疫に追われて、本来の仕事ができない
ゆっけ書いた人:ゆっけ(現役獣医師)保健所→産業動物臨床→家畜保健衛生所→畜産と、4つの現場を経験。
ワン

ワン

ゆっけさん、家畜保健衛生所って「地味だけど面白い職場」って言ってましたよね。それでも辞めたくなるものなんですか?

ゆっけ

ゆっけ

なります。しかも理由のほとんどが、自分の努力ではどうにもならないところにあります。先に言っておくと、私自身は家保が合っていました。

正直に書きます。

私は家保を「辞めたくて」辞めたわけではありません。

現場と行政の両方が見える職場で、自分にはよく合っていました。

それでも、辞めたくなる理由は分かります。

合っていた人間の目から見ても、いまの家保には「これはしんどいだろうな」と思う部分があるからです。

📌 この記事の結論

  • 辞めたい理由が防疫の比重なら、異動しても変わらない
  • 家保はいま、特定家畜伝染病の対応に時間の多くを取られている
  • そのぶん、病性鑑定や農家さんとのやりとりが薄くなっている
  • 一方で、人間関係・配属先は職場が変われば変わる
  • まず「自分が嫌なのはどっちか」を分けてから決める

結論:「防疫の比重」がしんどいなら、異動では変わりません

先に、いちばん大事なところを書きます。

家保を辞めたくなる理由は、大きく2つに分かれます。

しんどさ異動したら?
防疫の比重が大きく、本来の仕事ができない❌ 変わらない
手当金の計算など、防疫後の残務処理❌ 変わらない
職場の人間関係⭕️ 変わる
県庁に行くと事務ばかりになる⭕️ 変わる(ただし選べない)

❌ は国内の情勢で決まっていることです。どこの県の家保へ行っても、いま起きていることは同じです。

⭕️ はその職場・その配属で決まることです。

ワン

ワン

上の2つは、県を変えても同じなんですね。

ゆっけ

ゆっけ

そうです。鳥インフルエンザや豚熱が落ち着かない限り、家保の仕事の中身は戻りません。ここが不満の中心なら、家保の中で解決するのは難しいです。

家保はいま、「特定家畜伝染病の職場」になっています

家保=特定家畜伝染病の予防をする職場——そう言っても過言ではないくらいです。

理由は2つあります。

ひとつは、産業動物の獣医師が業界全体で足りていないこと。

もうひとつは、鳥インフルエンザや豚熱の対応業務が増えていることです。

この2つが重なって、家保の仕事は防疫に寄っていきました。

通常の検査まで、手が回りにくくなっています

本来、家保の仕事は防疫だけではありません。

牛伝染性リンパ腫をはじめとした病性鑑定——つまり「この家畜はなぜ具合が悪いのか」を調べる仕事があります。

ところが、防疫で手いっぱいになると、こちらに割ける時間が減ります。

ワン

ワン

やりたかった仕事ができなくなる、ということですか。

ゆっけ

ゆっけ

そこが大きいと思います。農家さんと一緒に病気の原因を探って、次の対策を考える——その時間が減っていくのは、家保の魅力そのものが薄くなるということなので。

家保がどんな職場なのかは、1日の流れでまとめています。

防疫作業の本当の大変さは、終わったあとに来ます

鳥インフルエンザや豚熱が出ると、殺処分の作業が始まります。

防護服を着て、何日も現場に入る。体力的にきつい仕事です。

ただ、しんどいのは殺処分そのものだけではありません。

手当金の計算と、そのあとの残務処理

手当金というのは、殺処分された家畜の所有者——つまり農家さんに支払われるお金のことです。

家畜伝染病予防法にもとづく制度で、殺処分される前の評価額の5分の4が交付されます。

さらに口蹄疫・豚熱・アフリカ豚熱・高病原性鳥インフルエンザなどは別枠です。

特別手当金とあわせて、原則として評価額の全額が交付されます。

つまり、農家さんの生活を立て直すためのお金です。

だからこそ、適当には決められません。

何頭いたのか。どの区分で、いくらと評価するのか。

この計算と書類の処理に、かなりの時間がかかります。

現場が終わっても、仕事は終わらない。ここが外からは見えにくい部分です。

ポイント

防疫作業は「現場がきつい仕事」だと思われがちです。

実際には、終わったあとの事務処理のほうが長く続きます。

ここに何週間も取られると、本来の検査や農場への関わりが後回しになります。

「県庁に異動すれば」と考える前に

公務員獣医師には、家保のほかに県庁勤務という道もあります。

ただし、ここは知っておいてください。

県庁は家保よりかなり忙しく、しかもほぼ事務作業がメインです。

家畜と関わる機会は、家保よりさらに減ります。

「防疫がしんどいから異動したい」という理由で県庁を希望すると、もっと家畜から遠ざかることになりかねません。

しかも公務員は、配属先を自分で選べません。

このあたりの事情は、公務員獣医師全体の話としてまとめています。

人間関係で辞める人は、実際にいます

ここは、防疫とはまったく別の話です。

私の周りにも、職場になじめず、人間関係が嫌になって辞めた人がいました。

家保は、ひとつの施設にいる獣医師が数人という小さな職場です。

合わない人がいても、部署を移って距離を取る、ということがしにくい。

逃げ場がない分、人間関係の重さは他の職場より大きくなりがちです。

ワン

ワン

これは、職場が変われば解決するほうですか?

ゆっけ

ゆっけ

はい。人の問題は、その職場だけの話です。別の自治体に移れば、まったく違う顔ぶれになります。ここで辞めるかどうかを決めるのは、少し早いかもしれません。

人間関係のしんどさそのものについては、こちらに書きました。

参考:私が「辞めた」のは、家保ではなく保健所でした

比較のために、私の実例を書いておきます。

新卒で配属されたのは保健所でした。そして、そこは辞めました。

理由は2つです。

ひとつは、クレーム対応が多く、精神的に疲れたこと。

猫への餌やりの苦情、飲食店で食べたもので腹を壊したという相談——そういった対応が業務の多くを占めていました。

もうひとつは、獣医学の知識をあまり活かせないと感じたことです。

個人的には、物足りない職場でした。

ポイント

同じ公務員獣医師でも、保健所と家保ではしんどさの中身がまったく違います。

保健所は「人を相手にする消耗」。

家保は「やりたい仕事に手が回らない消耗」。

自分がどちらに耐えられないのかで、選ぶ道は変わります。

保健所で働く1日の流れは、こちらにまとめています。

それでも、私は家保が好きでした

辞める話ばかり書いてきたので、続ける側の話も正直に書きます。

私にとって家保は、よく合った職場でした。

解剖して、原因を探るのが面白い

具合の悪い家畜を解剖して、何が起きていたのかを調べる。

細菌検査やウイルス検査をかけて、原因にたどり着く。

この過程が、純粋に面白かったです。

そして原因が分かれば、農家さんと一緒に次の対策を考えられます。

農家さんに感謝してもらえたときは、やっていてよかったと思いました。

診る家畜の種類が多い

鶏、豚、馬、牛、みつばち。

家保では、いろいろな家畜を診ることができます。

私はNOSAI時代に牛しか診てこなかったので、他の家畜を診られるのが単純に楽しかったです。

教科書に載っていない病気を、実際に見られる

病気の情報は、常に新しくなっていきます。

家保にいると、教科書で読んだだけの病気を、実際の現場で見ることになります。

私は、気になったことをその都度ウェブでも調べて、取り入れられそうなものは取り入れるようにしていました。

ゆっけ

ゆっけ

情報を更新し続けられる職場でした。知識が増えていく実感がある仕事って、意外と多くないと思います。

辞めると決めたら、行き先はどこか

仕分けをしたうえで「それでも辞める」となったら、行き先は主に3つです。

行き先こんな人に
別の自治体の家保人間関係・配属だけが問題なら、いちばん近い道
産業動物臨床家畜にもっと近いところで働きたいなら
企業(製薬・飼料・食品・畜産関連)年収を上げたい、検査の知識を活かしたいなら

公務員で身につけた検査の知識は、企業でそのまま武器になります。

製薬会社にも食品メーカーにも、検査の部署があるからです。

一度辞めても、公務員には戻れます。

獣医師が足りていないので、60歳前後まで受験できる自治体が過半数です。

まとめ:辞めたい理由が「防疫」なら、家保の中では解決しません

  • 家保はいま、特定家畜伝染病の対応に時間の多くを取られている
  • 背景は産業動物獣医師の人手不足と、鳥インフルエンザ・豚熱の増加
  • そのぶん病性鑑定や農家さんとのやりとりが薄くなっている
  • 防疫は現場だけでなく、手当金の計算などの残務処理が長く続く
  • ここが不満の中心なら、異動しても変わらない
  • 逆に人間関係・配属先なら、職場が変われば変わる
  • 県庁への異動は、家畜からさらに遠ざかるので注意
ゆっけ

ゆっけ

私は家保が合っていました。それでも、いまの家保が「入ったときに想像した仕事」と違うなら、それは我慢する話ではないと思います。

まずは、自分が嫌なのが制度で決まっていることなのか、その職場のことなのかを分けてみてください。

そこが分かれば、辞めるか続けるかは自然に決まります。


出典・参考:手当金及び特別手当金の交付について(農林水産省)/家畜伝染病予防法

※ 本記事は、私が家畜保健衛生所と保健所で働いた経験、および周囲で見聞きした話をもとに構成しています。業務の比重や忙しさは、自治体・年度・発生状況によって大きく異なります。

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ゆっけ
ここまで読んでくれてありがとう。最後にひとつだけ、伝えたいことがあります。

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