
ワン
ゆっけさん、地方公務員獣医師って「楽そう」「安定してそう」ってイメージですけど、実際どうなんですか?

ゆっけ
そのイメージ、よく分かります。実際、臨床のように夜中に呼び出されることはありません。
ただ、楽かどうかは別の話でした。
臨床のしんどさが「体力と時間」だとすれば、公務員のしんどさは別です。
私は地方公務員獣医師として、保健所と家畜保健衛生所で働いていました。
今回は「辞めたくなった瞬間」を10個集めました。
📌 この記事の結論
- あるあるの正体は組織の構造的な問題
- お金・異動と組織・仕事の中身の3つに分けて10個
- でも、どの職場にも辞めたくなる瞬間はある
- それでも、公務員には公務員の良さがある
これから挙げる10個は、あなたの適性不足ではありません。公務員という組織の構造が生んでいるものです。
読みやすいように、お金・異動と組織・仕事の中身の3つに分けました。

10個のしんどさは、大きく3つに分けられます
お金のしんどさ
あるある①:頑張ってもほかの公務員と給与があまり変わらない
地方公務員の給与は完全に給料表で決まるのが特徴です。
どんなに頑張っても、どんなに残業しても、同じ年次の公務員獣医師と給与はほぼ変わりません。
人事評価制度は一応あります。
でも評価が良くても、給与とボーナスが微増するくらい。
数百万円単位で増えるわけではありません。
そして問題なのが、評価が高い人ほど本庁勤務や忙しい部署に異動になること。
本庁では予算編成・議会対応・災害対応・感染症対応と、次々に業務が降ってきます。
夜遅くまで残業するのが日常です。
役職がつくこともあります。そのぶん業務量は増えます。
それでも給与はほとんど変わりません。
ちなみに、家畜保健衛生所勤務と本庁(畜産関係部署)勤務では、家保のほうが給与は高いです。忙しいほうが安いわけですね。
真面目に働く人がバカを見る——これが辞めたくなる瞬間です。
あるある②:年功序列で給与が決まる
地方公務員の給与体系は完全な年功序列です。
基本給は、勤続年数で自動的に上がっていきます。
だから、若手のうちはメリットを感じにくい。
そして現場で働いていると、明らかに仕事をしていないおじさん・おばさん獣医師の方が、自分より給与が高いという現実に直面します。
これは、ほかの企業でもよく見られる現象だと思います。
頑張っても評価されない、頑張らなくても給与は上がる。
この構造が、優秀な若手が公務員を辞める原因のひとつだと感じています。
異動と組織のしんどさ
あるある③:異動の希望が通らない
地方公務員は数年ごとに異動があります。
本人の希望は「異動希望調書」に書いて提出します。
でも——希望は、ほぼ通りません。
県内とはいえ、家族の事情を書いても平然と遠方の出先機関に異動になることがあります。
通勤2時間コースになる人も珍しくありません。
さらに、入庁時に「家畜保健衛生所で働きたい」と思っても保健所に配属されることがあります。
農政部と公衆衛生部の異動はほぼないため、最初に配属された部署で公務員生活を過ごすことになります。

ゆっけ
私も最初は家畜保健衛生所が良かったのですが、保健所に配属されて、異動希望も通らず、結果的にすぐ退職する決断をしました。
「配属ガチャ」と言ってもいいくらい、最初の配属で公務員人生が大きく変わります。
あるある④:異動の内示が出るまで、落ち着かない
公務員には内示があります。
ひとつの職場に、だいたい3〜5年。早いと2年で異動することもあります。
つまり、数年ごとに「異動ガチャ」が回ってきます。
これが毎年3月です。
その時期になると、職場全体がソワソワしはじめます。
異動で変わるのは、仕事の中身だけではありません。
通勤時間が一気に伸びることもあります。
住む場所を変えるかどうか、家族とどうするか。
内示が出るまで、その話し合いすら始められません。
決まってから動くまでの期間も短いので、毎回バタバタします。
あるある⑤:決裁が、なかなか下りない
公務員の仕事は、自分ひとりで判断することはできません。
何をするにも決裁が必要です。
書類を作って、上に回して、戻ってくるのを待つ。
途中で1人が不在だと、そこで止まります。
修正が入れば、また最初から回し直しです。

ワン
急ぎの案件でもそうなんですか?

ゆっけ
そこは融通が利きます。ただ、普段の業務は基本このスピードです。
臨床から来た人ほど、ここでギャップを感じます。
自分の判断ですぐ動けた世界から、待つ時間の長い世界に入るからです。
あるある⑥:紙の書類が多く、いまだにハンコ文化
デジタル化と言われて久しいですが、現場はまだ紙が主役です。
書類を印刷して、回覧して、ハンコを押す。
回覧板にハンコを押して、隣の席に回す。
「これ、メールでよくないですか」と思う場面は、正直たくさんあります。
そして、いまだにFAXを使っています。
これには理由があって、農家さんは高齢の方が多く、メールよりFAXのほうが確実に届くからです。
相手に合わせた結果なので、これは仕方がない部分もあります。
ただ、これも決裁と同じで、記録を残す仕組みとして成り立っているものです。
理屈は分かるのですが、毎日となるとじわじわ効いてきます。
あるある⑦:職場に、変わった人が一定数いる
ここは独断と偏見が入ります。
公務員の職場には、「この人、どうなっているんだろう」と思う人が大概います。
休みがちでほとんど出勤しない人。話がなかなか通じない人。

ワン
民間だと、そういう人は…?

ゆっけ
そこが違います。公務員は身分が保障されているので、そのままです。
もうひとつ、背景があります。
優秀な人ほど忙しい部署に回され、それが嫌になって辞めていきます。
そうすると、「この人、公務員以外で働けるのだろうか」と思うような人が残ります。
結果として、変わった人の割合が高くなっていく。そういう構図です。
身分保障は、公務員のいちばんの良さでもあります。
体調を崩しても、安心して休める。私自身、そこに助けられました。
ただ現場から見ると、その人の分の仕事が誰かに回るということでもあります。
真面目に働く人ほど、仕事が増えていく。
この構造は、正直しんどいところです。
仕事の中身のしんどさ
あるある⑧:意味不明な電話が来る
地方公務員獣医師の業務には住民対応が含まれ、これが地味に精神を削られる。
たとえば「隣のおばあちゃんが猫に餌をあげて大量繁殖させている」「動物病院で犬が死んだ、医療ミスでは」といった電話。
「税金で食ってる癖に」「家畜の糞尿が臭い」というものもあります。
こちらでは対応できないような電話が多いのですが、「民民(当事者同士)で解決してください」と直接言うと怒ります。
なので、話を聞きつつ穏便に切る方法を考えながら対応します。
1時間以上切ってくれない人、精神的に不安定な人、暇で仕方ない人。
こうした対応を、業務の合間にしなければいけません。

ゆっけ
そういう人に限って定期的に電話してきて、電話番号を見ただけで「今日はあの人の日か…」と疲れる瞬間(笑)。
これも、地方公務員獣医師あるあるです。
あるある⑨:完全なるルーティンワークで、仕事に飽きが来る
地方公務員獣医師の業務は年間スケジュールがほぼ決まっているルーティンワークです。
毎年ほぼ同じ時期に、同じ業務が回ってきます。
4月も夏も年末も、ほぼ毎年コピー&ペーストのように繰り返されます。
3年目くらいまでは「学ぶことが多くて新鮮」と感じられます。
でも5年目を超えた頃から強烈な「飽き」が来るのがあるある。
「今年も同じことをやるのか…」「自分は成長しているのか?」という疑問が頭をよぎります。
刺激を求める人には、精神的にキツい環境です。
逆に「ルーティンが安心」という人には、とても働きやすい職場。
ここは性格との相性が大きい部分です。
あるある⑩:土日出勤が、意外にある
「公務員は土日休み」と思われがちですが、そうでもありません。
家畜保健衛生所の場合、土日でも伝染性疾病の疑いがあれば出勤します。
農家さんから連絡が入れば、動かないわけにいきません。
そして、いちばん大きいのが鳥インフルエンザです。
発生すれば、休みなしで防疫作業に入ります。
「今週末は休めない」ではなく、「いつ終わるか分からない」という状態になります。
当直のように毎日ではありません。
ただ、いつ来るか読めないという点では、臨床とはまた違うしんどさがあります。
10個に共通していること
ここまでの10個には、共通点があります。

しんどさの裏には、たいてい制度や組織の事情があります
どれも個人の頑張りでは解決しにくい、組織全体の構造的な問題です。
つらいのは、あなたの頑張りが足りないからではありません。
| あるある | 背景にあるもの |
|---|---|
| 給与が変わらない・年功序列 | 給料表で決まる制度そのもの |
| 異動の希望・内示 | 組織の人事都合が優先される仕組み |
| 決裁・ハンコ・紙書類 | 記録と責任を残すための行政の手続き |
| 職場の人 | 身分保障の裏返し |
| 住民からの電話 | 行政の窓口としての宿命 |
| ルーティンの繰り返し | 年間業務サイクルの固定化 |
| 土日出勤 | 防疫は相手(病気)の都合で起きる |

ゆっけ
ただ、これは地方公務員に限った話ではなく、どの職場にも辞めたくなる瞬間はあります。
動物病院でも、産業動物臨床でも、企業でも、必ず何かしらのしんどさはついてくるもの。
大事なのは「自分にとって、どの職場が一番合っているのか」を探すこと。
せっかく獣医師になったのだから、自分に合う職場を探す旅をしてみるのも、いいんじゃないでしょうか。
本気で「辞めたい」と考えているなら、一度辞めて戻った私の判断と、その後の行き先をこちらに書きました。
それでも、公務員には公務員の良さがあります
10個も並べたので、ひどい職場のように見えたかもしれません。
でも私は、一度辞めたあとにもう一度、公務員に戻っています。
体調を崩しても安心して休めること。産休・育休が当たり前に取れること。
家畜保健衛生所で防疫の仕事をしていたときは、「社会の仕組みを支えている」という手応えもありました。

ゆっけ
ここまでのしんどさと、この安心は同じ仕組みの表と裏です。身分が守られているから休める。守られているから、働かない人もそのままでいられる。
つまり、身分保障をなくせば「変わった人」の問題は減るかもしれません。
でも同時に、体調を崩したときに休める安心も消えます。
どちらか片方だけを選ぶことはできません。
「よかったこと」のほうは、こちらにまとめました。

それでも限界なら、道はほかにもあります

ゆっけ
獣医師としてのキャリアは、地方公務員だけじゃありません。
私自身、地方公務員獣医師を経験したあとに産業動物臨床へ転職しました。
その後また地方公務員に戻り、今は別の畜産関係の仕事をしています。
地方公務員獣医師のしんどさを感じている方には、こんな選択肢があります。
- 小動物臨床 → 技術と実績が評価につながりやすい。院長との交渉次第で給与も動く
- 産業動物臨床 → 現場の手応えがある。動物と直接関わりたい人向け
- 製薬会社・畜産関連企業 → 完全土日休み・年収アップしやすい・新しい挑戦が多い
「地方公務員獣医師しか道がない」と思い詰める前に、ぜひ他の選択肢も知ってみてください。





