
ワン
ゆっけさん、動物病院で働いている友だちが「もう辞めたい」ってこぼしていて…そんなにしんどいものなんですか?

ゆっけ
正直、しんどい場面は多いです。しかも同じような話を、いろんな病院の人から聞きます。
動物が好きで選んだ仕事のはずなのに、なぜ辞めたくなるのか。
あなたの病院だけで起きていることではありません。
なお、先にお伝えしておきます。私自身は小動物臨床の経験がありません(公務員と産業動物の出身です)。
そのかわり、動物病院で働く友人や先輩が多く、話を聞く機会には恵まれてきました。
今回は"辞めたくなる瞬間"を10個まとめました。
📌 この記事の結論
- 辞めたくなるのは、あなたが弱いからではありません
- 原因の多くは、動物病院という職場の仕組みにあります
- だから、個人の頑張りで解決しようとしても限界があります
- ただし臨床で積んだ力は、どこへ行っても残ります。使った時間は無駄になりません
- 合わないと感じたら、病院を変える・分野を変えるという手があります
これから挙げる10個は、あなたの頑張り不足ではなく、業界の構造が生んでいるものです。
読みやすいように、働き方・人と職場・体と心とお金の3つに分けました。

当てはまるものがあれば、その番号まで飛んでください
働き方のしんどさ
あるある①:出勤前の入院当番は、事実上のサービス残業
動物病院の労働環境の厳しさを象徴するのが出勤前の入院当番です。
入院動物の世話・点滴・投薬・採血は、始業前に終わらせる必要があります。
だから、始業より1時間早く出勤するのが当たり前という病院も少なくありません。
ある先輩は始業9時の病院で、毎日7時半に出勤していました。
その1時間半は、当然給料に反映されない。
タイムカードに残らないサービス残業が、毎日積み重なっていきます。
誰かがやらないといけない仕事なのに、なんとなく「若手の仕事」になっている病院も多い。
まだ誰も来ていない病院で、ひとり黙々と手を動かす。
この時間が給料に入らないと気づいたとき、ふっと力が抜けます。

始業前も終業後も続く、入院動物のケア。誰にも評価されにくい仕事です
あるある②:飛び込みの来院で、予定どおりに終わらない
動物病院は、予約だけでは回りません。
飛び込みの来院が入ります。これは臨床の現場である限り、避けられません。
「昨日から吐いていて」「さっき急に倒れて」——待ってもらうわけにいかない子が来ます。
予定していた診察は後ろにずれます。
午前の診察が午後まで食い込み、そのまま午後の診察が始まる。
昼ごはんを立ったまま5分でかき込む、という話はよく聞きます。
「今日は定時で帰れそう」と思った日ほど、閉院間際に電話が鳴る。
今日は何時に帰れるのか、朝の時点では誰にも分かりません。
予定が立てられない毎日が、じわじわ効いてきます。
1日の流れそのものは、こちらに時系列でまとめています。
あるある③:休みなのに休めない——電話・呼び出しの恐怖
動物病院の休日は、本当の意味での休日ではありません。
休日でも、担当している入院動物のことが頭から離れない。
スマホが鳴ると「もしかして病院から…?」と一瞬で身構える。
実際に呼び出されて、休みが吹き飛ぶことも。
特に院長と少人数で回している病院では、「休みでも何かあったら呼ばれる」のが当たり前。
旅行も計画しづらく、結婚式の予定も入れにくい。
ある先輩は「結婚式の前日に呼び出されかけて、本気で辞めようと思った」と言っていました。
プライベートと仕事の境界が曖昧——これが慢性的に続くと、心の余裕がどんどんなくなっていきます。
あるある④:帰っても、勉強が終わらない
動物病院の仕事は、勤務時間で終わりません。
診た症例の調べもの。次の手術の予習。学会や勉強会の準備。
これを、家に帰ってからやります。
しかもそのほとんどが、業務時間に入りません。
「勉強するのは当たり前」という空気があります。
実際、勉強しないと診られる病気が増えません。
これは産業動物でも同じでした。
私も1年目のころは、分からない症例ばかりでした。
診たことのない病気が来るたびに、家に帰ってから教科書を開く。
調べて、次に同じ症例が来たときに備える。その繰り返しです。
休みの日も、けっこう勉強していました。
臨床は「できるようになるまで、自分の時間を使う」のが前提の仕事です。
ただ、ここは正直に書いておきます。使った時間は、そのまま自分の腕になります。
- 調べた病気は、次に来たときに診られるようになる
- 覚えた手技は、一度身につければ一生使える
- 読んだ論文は、何年も先の判断を支えてくれる
勉強した分だけ、確実に自分のレベルが上がっていく仕事です。しかも身につけた力は、どこへ行っても消えません。病院を変えても、企業に移っても、臨床で積んだものは残ります。

ワン
しんどいけど、無駄にはならないということですね。

ゆっけ
そこは言い切れます。臨床の数年は、確実に財産になります。
しんどいのは「その時間が業務に入らないこと」であって、勉強そのものではありません。ここを分けて考えると、少し気が楽になります。

つらいのは左側だけ。右側は、ちゃんと残ります
人と職場のしんどさ
あるある⑤:閉鎖的な空間で、人間関係がこじれやすい
動物病院は少人数・閉鎖空間で長時間過ごす職場です。
ここで人間関係が崩れると、逃げ場がありません。
そりが合わないスタッフが1人いるだけで、毎日の出勤がしんどい。
これは動物病院で最も多い退職理由と言われています。
5〜10人の病院では、毎日同じメンバーと8時間以上一緒。
休憩室も狭く、気を遣います。
疲れや慣れから周りを気遣う余裕もなくなり、気づけば誰かが誰かに当たっている空気が日常化していきます。
ある友人は、院長と合わないという理由で退職を決意しました。
「仕事内容は好きだった。でも毎朝『今日も院長と顔を合わせるのか』と思うと家を出る足が重くなって」と本音を語っていました。
動物病院を辞める理由のトップが「人間関係」と言われるのは、この構造が背景にあります。
院長だけではなく、動物看護師さんとうまくやることも必須になります。
あるある⑥:新卒なのに、いきなり一人で診察に出される
これは、新卒がいちばんつまずくところです。
病院によって、教育体制がまるで違います。
手厚く指導してくれる病院もあります。
一方で、入って早々に一人で診察に出される病院もあります。「見て覚えろ」に近いやり方が、まだ残っている職場もあります。
分からないまま診て、ミスをして、怒られる。
自信がなくなって、また次の診察が怖くなる。
この悪循環に入ると、1年もたないことがあります。
新卒で入る病院を選ぶときに、教育体制をどこまで確認できたかが、あとから大きく効いてきます。
あるある⑦:相手は動物ではなく、飼い主さんです
意外と大きいのが、飼い主さんへの説明です。
- 「ネットで調べたけど、この治療はやらないの?」
- 「その検査はしなくていいから、薬だけ出して」
- 「お金が払えないから、どうにか安くしてよ」
こうしたやり取りは、珍しくありません。

ワン
動物相手の仕事なのに、飼い主さんへの対応ってそんなに大変なんですか?

ゆっけ
そこが、この仕事の意外なところです。治療を決めるのは動物ではなく、飼い主さんですから。
どれだけ丁寧に説明しても、納得してもらえないことはあります。
そのたびに「自分の伝え方が悪かったのかな」と考えてしまう。
これが1日に何件も続くと、さすがに消耗します。
ある先輩は「動物相手の仕事と思って獣医師になったのに、ふたを開けたら仕事の8割は人間相手だった」と苦笑いしていました。
診察室では飼い主さんに気を遣い、電話では問い合わせを受け続ける。
動物を亡くした直後の飼い主さんから、強い言葉を向けられることもあります。悲しみの行き先がないだけだと分かっていても、受け止める側にはこたえます。
「動物が好き」だけで続けるには、人と向き合う負担が想像以上に大きい——これが動物病院あるあるです。
体と心とお金のしんどさ
あるある⑧:処置中に噛まれる・引っかかれる日常
動物病院の獣医師は、毎日のように動物に噛まれたり引っかかれたりする職業です。
怖がって暴れる動物を抑えながらの処置は、毎日がリスクとの戦いです。
ある同期は「腕に新しい傷が増えるのが当たり前すぎて、もう気にしなくなった」と話していました。
中には深く噛まれて病院に運ばれた獣医師もいるほど。
「腰痛・腱鞘炎・噛み傷・引っかき傷」は、動物病院の獣医師の職業病です。
若いうちはなんとかなっても、40代・50代まで続けられる仕事なのか?と不安になる人も少なくありません。
あるある⑨:大切にしていた動物が、目の前で亡くなる精神的ダメージ
これは動物病院特有の、最も重い辛さかもしれません。
大好きな動物が、目の前で亡くなっていく。
飼い主さんが泣き崩れる姿を目の当たりにし、「あのときこうしていれば」と自分を責める夜。
ある友人は新卒1年目に初めて自分の担当患者を看取った夜、家に帰ってから1時間泣き続けたそうです。
「悲しいというより、無力感に押しつぶされた」と振り返っていました。
動物が好きで志したのに、その「好き」がそのまま辛さに変わる。
「動物が好きすぎる人ほど、動物病院は辛くなる」という構造があり、命と向き合う仕事はそれだけ重いのです。
あるある⑩:6年制専門職なのに、年収が医師の半分以下
新卒で動物病院に入ると、初任給は20万円台前半がほとんど。
手取りにすると18万円前後です。
学生時代の奨学金返済もあるのに、家賃・食費を払うと月末にはほぼ手元に残りません。
ある同期は「同じ大学から医学部に行った友人と比べると年収差がエグい。やりがいはあるけど、生活が成り立たない」と話していました。
6年間の学費・努力に見合うリターンが、業界として担保されていない。
これは個人ではなく、業界全体の問題です。
なお、動物病院に勤めている期間は「臨床経験を積む期間」と割り切っている先生もいます。
勤務医のままだと年収が低いままなので、最終的には開業を選ぶ先生が多い傾向です。
10個に共通していること
ここまでの10個には、共通点があります。
どれも個人の頑張りでは解決しにくい、業界全体の構造的な問題です。
つらいのは、あなたの頑張りが足りないからではありません。
| あるある | 背景にあるもの |
|---|---|
| 出勤前の入院当番・休日の呼び出し | 少人数で24時間の命を預かる体制 |
| 飛び込み来院で終わらない | 動物の体調は、予約どおりに悪くならない |
| 帰っても勉強が終わらない | 自己研鑽が前提で、評価に入りにくい構造 |
| 新卒の独り立ち | 教育体制が病院ごとの裁量に任されている |
| 閉鎖空間の人間関係 | 動物病院の規模と組織構造 |
| 飼い主さんへの説明 | 顧客対応の負担を現場が直接受ける |
| 噛まれる・引っかかれる | 動物を相手にする仕事の宿命 |
| 動物の死 | 仕事の本質的な辛さ |
| 年収が低い | 業界全体の給与水準 |

ワン
これって、頑張れば解決できる問題じゃないんですね…

ゆっけ
そう、だからこそ「自分が悪いわけじゃない」「自分の頑張り不足じゃない」と思ってほしいんです。
動物病院で辛いと感じるのは、ある意味正常な反応です。
それでも、続けている人がたくさんいます
10個も並べたので、ひどい仕事のように見えたかもしれません。
でも、これだけしんどい面があっても、小動物臨床を続けている獣医師はたくさんいます。
治療した子が回復して退院する瞬間。
子犬のころから診てきた子を、最期まで見送れたこと。
飼い主さんからの「先生に診てもらえてよかった」の一言。

ゆっけ
友人たちに聞くと、しんどい話と同じくらい、うれしかった話も出てきます。
「よかったこと」のほうは、こちらにまとめました。

1年目でつまずいている方は、こちらもどうぞ。今日からできることを書いています。

それでも限界なら、道はほかにもあります

ゆっけ
獣医師としてのキャリアは、動物病院だけじゃありません。

公務員・産業動物・企業・別の動物病院——道はいくつもあります
私自身は公務員獣医師と産業動物獣医師を経験してきました。
特に「ほどほどに働きたい」という方には、地方公務員獣医師という選択肢があります。
夜中に呼び出されることも、休日に電話が鳴ることも、動物に噛まれることもほぼなくなります。

小動物に関わり続けたいなら、動物園や水族館という道もあります。
また、いま働いている病院がすべてではありません。
他の動物病院を探して、自分に合った病院を見つけることも、立派な選択です。
「動物病院しか道がない」と思い詰める前に、ほかの選択肢も知っておいてください。
もし今、心や体が限界に近いなら——選択肢を考えるより先に、休んでいい。無料・匿名で話せる窓口をまとめました ▶ 今つらい獣医師へ|「もう限界かも」と思ったら読む
※ 本記事は筆者の経験・同期友人の体験談・業界の動向をもとに構成しています。





