
ワン
ゆっけさん、産業動物の獣医師って、どんな働き方をしているのか想像できないんです。

ゆっけ
そうですよね。往診業務がメインなので、外からは見えにくいと思います。
動物病院なら、飼い主として中に入ったことがある人もいます。
でも産業動物の現場は、農場の中です。牛舎で何をしているかは、関係者しか見ていません。
私も転職する前は、正直まったく想像できませんでした。
そこでこの記事では、私が産業動物獣医師として働いていた頃の1日を、朝から順番にそのまま書きます。
移動時間も、車内での昼食も、当直の夜も、削らずに書きます。
📌 この記事の結論
- 産業動物の1日は往診8〜10件・走行100km
- 移動はプロボックスなどの商用車、昼食は車内で食べるのがほとんど
- 拘束時間は8:30〜17:15が基本。日によっては残業あり(カルテ整理や月末の薬の棚卸しなど)
- 当直は分担制で、当直じゃない日は呼び出しゼロ
- 体力的にキツいこともあるが、農家さんに喜んでもらえることがやりがい
求人票や説明会では、実際の働き方までは分かりません。
1日の仕事を通して見るのが、その仕事との相性を知るいちばんの近道です。
産業動物獣医師の1日を、数字で見る
まず、1日の規模から。
数字だけ見れば、ハードに感じないかもしれません。
ただ、難産介助や手術が入れば、かなりハードな1日に激変します。
その日にならないと、どれくらい忙しいのか分かりません。
予定が立てにくいのが、この仕事のいちばんの特徴です。
夏場は特に暑く、体力も奪われます。
産業動物獣医師のスケジュール
1日の流れは、こうです。
ざっくりとした流れは、こんな感じです。ここから1つずつ、中身を書いていきます。
8:30|出勤・準備
8:30に出勤すると、種付けや診療依頼の電話が鳴り響きます。
それを地域ごとにホワイトボードに書き出し、出勤している先生で診療件数を分担します。
担当が決まったら、診療車に薬を積み込みます。
注射薬・補液・器具類——手際よく積まないと、現場で「あれがない」となる。
いざ治療を始めようとして薬がないと、取りに帰るか、近くの先生と連絡を取ってどうにか薬を入手する必要があるので、時間をロスします。

ゆっけ
診療車は産業動物獣医師の相棒。トランクが広い商用車タイプが多く、現場仕様でよくできているんです。
私の場合は、補液のダンボールを組み合わせて、薬をたくさん入れていました。

朝の積み込み作業。地味だけど、1日の出来を左右する大事な準備です
9:30|診療開始(緊急性の高い順に巡回)

往診のイメージ。1件ごとに農場を回り、車には診療道具一式を積んでいます
急性乳房炎などの緊急案件から、順番に回ります。
特に「牛が立たない」「子牛が産まれない」という連絡が来たら最優先。
起立不能は原因が複数あって、判断も処置も早さが命です。

ゆっけ
本音は効率よく回りたい、でも「とりあえず急いで来て!」と言う農家さんに限って、めちゃくちゃ遠い場所にいたりするんですよね…。
午前中に4〜5件回ることもあれば、難産介助1件に2時間かかって午前はそれだけで終わる、なんて日もあります。
12:30|昼食・昼寝
診療の目処がついたら、お昼休みに入ります。
時間は目安ですが、私はお昼前後には休憩を取るようにしていました。
空腹が長く続くと夏場は危ないので、ご飯を食べて、きちんと休憩する。

お昼は車内飯+昼寝が定番でした
ご飯は私の場合、汚れたつなぎで飲食店に入るのが嫌なので、いつもお弁当を持参して車内で食べていました。
節約の意味もあります。他の先生は、外食に行く人も多かったです。
休憩場所は、道の駅や公園の駐車場が多かったです。
午後の診療が軽そうなら、昼寝もします。

ゆっけ
でも、昼寝の途中に限って追加の診療の連絡が来たりして、少しテンションが下がります(笑)
15:30|帰所・カルテ入力・補充作業
午後の診療が一段落したら、診療所に戻ってカルテ入力。
往診中にメモした内容を、パソコンで高速で打ち込みます。
隣のベテラン先生からは「診療種別は何番?」とか、あまり使わない薬の短縮番号をよく聞かれたりします。
その後は薬の補充。
特に夏場は、補液の消耗が桁違い。
私は心配性なので、過剰なくらい補液を診療車に詰め込んでいました。
そのおかげか、近くの先生から「Ca剤余ってない?」と連絡が来て、補液剤を他の先生たちに回すことも多かったです。
ちなみに、診療の合間で種付けも行っていました。
また、月末はカルテ整理や薬の棚卸しをするので、残業することが多いです。
棚卸しは事務仕事で一番大変な作業。薬の在庫が合わないことが多くて、最終的には力技で数字を合わせに行きます。
17:15|帰宅
追加の呼び出しがなければ、定時で帰宅。
ただ、夕方に農家さんから電話が来ることもあります。
当直は分担制。当番でない夜は、電話が鳴りません

ゆっけ
私の診療所では当直制がきっちり決まっていて、当直じゃない日は呼び出しゼロでした。
「今日は◯◯先生の当直日」と分担表があります。
自分の当番でない夜は、呼び出されません。ここは動物病院と大きく違うところだと思います。
ただし、当直は1人体制です。
実際に自分が当直になったとき、農家さんから電話があると緊張します。
とくに「子牛がなかなか産まれない」と夜中に連絡があったときは、農場に着くまで緊張感マックス。
「無事に分娩介助できるかなー」「帝王切開するのやだなー」と考えながら、深夜の道を運転していたりします。

当直の夜、農家さんからの連絡で農場へ向かう道のり
診療内容は季節で変わる
産業動物臨床は、季節で診療内容がガラッと変わります。
同じスケジュールでも、やっている仕事は別物です。
「夏は乳房炎、冬は子牛の下痢」とよく言っていました。
年間スケジュールが体に染み込むまでは、牛と同じで、私も季節の変わり目によく体調を崩していました。
向いている人・向いていない人
5年やって感じた肌感です。
シフト制なので、どうしても土日祝日が必ず休みになるとは限りません。
私の場合は、妻や子どもとの予定が合わなくなってきたので、臨床を一度離れるという選択をしました。
「向き」は事前に分かりにくく、やってみて初めて気づく部分も多いです。
でも運転(長時間の一人移動)だけは、やる前にイメージしておくと後悔が減ります。
しんどい場面をもっと具体的に知りたい方は、こちらもどうぞ。
他の転職先と比べると、採用ハードルの低さが際立つ
獣医師の主な転職先を、ワークライフバランス・給与・採用ハードルの3軸で比較するとこんな感じです。
| 転職先 | ワークライフバランス | 給与 | 採用ハードル |
|---|---|---|---|
| ⭐ 産業動物獣医師 | △(当直あり) | ○(2年目以降アップ) | ◎(低い) |
| 地方公務員 | ◎ | △ | ◎(低い) |
| 製薬会社 | ○ | ◎ | △(やや高い) |
| 食品関連企業 | ○ | ○ | △(やや高い) |
| 一般開業医(小動物) | △ | ○ | ◎(低い) |

ゆっけ
産業動物の強みは「採用ハードルが低い+2年目以降の給与が伸びる」ことです。
採用ハードルが低い理由は、人数です
農林水産省が、獣医大学の卒業生の進路を調べています。
| 進路 | 人数 |
|---|---|
| 小動物診療 | 454人 |
| 産業動物診療 | 126人 |
| 公務員 | 107人 |
(令和5年3月卒・卒業生は約1,000人/農林水産省調べ)
毎年1,000人が獣医師になって、産業動物に進むのは126人です。
そもそも産業動物獣医師は、全国的に人手が足りていません。
そこへ入ってくるのが年126人なので、全国の診療所がこの人数を取り合う形になります。
採用のハードルが下がるのは当然でした。
給与は「2年目から」伸びます
1年目は公務員とほぼ同じ、約430万円です。
伸びるのは2年目からで、私の場合は約580万円になりました。
その先、中堅から役職前で600〜700万円というのが目安です。入ってすぐ届く数字ではありません。
実際の給与明細の中身は、こちらで公開しています。
一方で当直の有無や運転距離は診療所で大きく変わるので、必ず確認してください。
診療所そのものの選び方は、NOSAI獣医師とは?にまとめました。
まとめ:向いている人には、本当に面白い仕事

ゆっけ
こうやって書き出すと結構ハードに見えますが、産業動物臨床の5年間、私はわりと好きでやっていました。
牛に蹴られれば体は痛みますし、牛舎のにおいは作業着にしみつきます。
夏の牛舎は、立っているだけで汗が止まりません。
それでも農家さんに「ありがとう」と喜んでもらえることが、この仕事のいちばんのやりがいだったと今でも思います。
小動物臨床と大きく違うのは、フィールドが農場であること。
診察室という閉じた空間で1日中過ごすわけじゃない。
田舎道を走りながら次の農場に向かう移動時間が、ある種のリセット時間になっていました。
運転中はYouTubeやAudibleなど、耳で楽しむ配信をよく聞いていました。
向いている人にとっては本当に面白い仕事で、向いていない人にとっては体が持たないかもしれない。
どちらなのかは、やってみるまで分からない部分もあります。
職場の種類・年収・将来性まで、産業動物臨床の全体像はこちらに。
※ これは私の経験に基づく一例です。地域・診療所・担当エリアによって1日のスケジュールや業務内容は大きく異なります。




