
ワン
ゆっけさん、「馬のお医者さん」って憧れるんですけど、どうやったらなれるんですか?

ゆっけ
馬の獣医師は人数が少なく専門性の高い世界です。ただ入口は1本ではありません。
誤解を解きながら、順番に話していきますね。
なお、私自身は馬の獣医師として働いた経験はありません。
この記事は、実際にJRAの職員さんや、馬を診療している獣医師に聞いた内容をもとに作っています。
読み終えるころには、馬の獣医師への道が「夢」から「目指せるルート」に変わっているはずです。
📌 この記事の結論
- 馬の獣医師は4つの働き方(JRA・地方競馬・生産地・民間)
- 馬術部や特定の大学が有利な傾向はある。でも、そうでない職員もたくさんいる
- 職員の経歴はばらばら。臨床だけでなく研究の分野から入会する道もある
- JRA獣医職の平均は約1,080万円(ベテラン含む)・初任給は月25万ほど
- 求人は表に出にくいので、自分で各団体をチェックするのが鍵
結論:馬の獣医師は"憧れ"。でも、入口は意外と複数ある
先に結論から。
馬の獣医師には JRA・NOSAI・牧場・乗馬クラブと、大きく4つの働き方があります。
「特別な人しかなれない」イメージですが、道は1本ではありません。
先に、言葉の話をひとつ。
JRA(日本中央競馬会)は株式会社ではなく、日本中央競馬会法にもとづいて設立された特殊法人です。
「会社」ではなく「会」なので、職員になることを「入社」ではなく「入会」と言います。
この記事でもJRAについては「入会」と書きます。
理由:なぜ「入口は1本ではない」と言えるのか
理由は、入口が複数あり、臨床経験からでも研究からでも入れるルートがあるから。
- 4つの働き方それぞれに、求められる経験も入り方も違う
- 「馬に乗れないと無理」ではなく、獣医療の力で貢献する道もある
- 臨床だけでなく、研究の分野で貢献する道もある
- だから"憧れ"で諦める前に、まず選択肢の全体像を知るのが大事
では、その4つの働き方から見ていきましょう。
具体例:馬の獣医師の「4つの働き方」
「競馬の獣医師=JRA」というイメージが強いですよね。
でも実際には、馬に関わる獣医師の活躍の場はもう少し広いです。

馬の獣医師の4つの働き方
| 働き方 | 主な場所 | 仕事のイメージ |
|---|---|---|
| JRA(日本中央競馬会)の職員獣医師 | 競馬場・トレーニングセンター(美浦/栗東)・育成牧場・競走馬総合研究所 | 出走馬の検査、診療、薬物(ドーピング)検査、研究 |
| 地方競馬(NAR)の獣医師 | 全国各地の地方競馬場 | 出走馬の健康チェック・診療 |
| 生産地の団体職員・開業獣医 | 北海道日高・青森など軽種馬の産地(NOSAI・軽種馬農協など) | 繁殖牝馬・仔馬の診療、生産牧場のサポート |
| 民間(馬専門病院・乗馬施設) | 乗馬クラブ、馬の専門クリニックなど | 乗用馬・繁殖馬の診療、繁殖・装蹄まわりの連携 |

ワン
競馬場で働く以外にも、馬が生まれる牧場で仔馬を見るお仕事もあるんですね。

ゆっけ
「走る馬」を支えるのがJRAや地方競馬、「生まれて育つ馬」を支えるのが生産地の獣医師、というイメージです。
馬の一生のどの場面に関わりたいか。
それによって、選ぶ道が変わってきます。
JRA職員獣医師は、どんな仕事をしているの?
一番人気で、競争率も高いのがJRAの獣医職です。
仕事は「馬を治療する」だけではありません。
| 仕事 | 中身 |
|---|---|
| 診療・健康管理 | トレセンや育成牧場で、競走馬のケガ(骨折・腱や靭帯の炎症など)や体調を診る |
| 防疫業務 | 馬がトレセンに入るときの個体照合・健康チェック・ワクチン接種など |
| 開催業務 | 競馬開催日に、出走馬の馬体検査や、事故が起きたときの救護・診療を行う |
| 研究 | 競走馬総合研究所で、馬の病気・故障の予防や治療法を研究する |
現役職員のリアルな1日(トレセン診療所の例)
JRAの採用サイトで紹介されている、栗東トレーニングセンター診療所で働く獣医師の1日は、こんな流れだそうです。
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 朝6時 | 出勤、調教を監視(馬の動きから異変がないかを見る) |
| そのあと | 急患の馬の診療 |
| 9時 | 一般診療スタート |
| 12時 | 昼休憩 |
| 17時 | 診療終了。週3日は症例ディスカッションや勉強 |
朝は早く、本格的な手術を行う診療所もある、しっかりした医療現場です。
JRAの獣医師は「馬を守る人」であると同時に、競馬という仕組みの信頼を支える人でもあります。
だから採用でも、知識だけでなく誠実さや責任感が見られると言われます。
「馬術部じゃないから無理」――そうとも限りません
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
まず、正直に書きます。傾向として、馬術部出身の人や特定の大学からの入会が強いのは事実です。

ワン
えっ、やっぱりそうなんですか…。乗馬も馬術部の経験もないので、もう無理かと思ってました。

ゆっけ
そこで止まらないでください。実際の職員には、馬術部出身でない人も、その大学でない人もたくさんいます。
JRAの新卒採用サイトにも、はっきり「選考の段階で競馬の知識がなくても問題ありません」と書かれています。
職員の経歴は、思ったよりばらばらです
聞いていて印象的だったのは、いろんな経歴の人がいたということでした。
卒業後に地方公務員として数年働いてから入会した人もいたそうです。ただし、これはかなり稀な例です。「公務員を経由すれば入りやすい」という話ではまったくありません。
もうひとつ、臨床以外の道もあります。JRAは研究にも力を入れています。検査手技を確立したり、研究報告を出したりする仕事があり、その分野に強い人材も求められています。
つまり「新卒で、馬術部で、競馬に詳しい人」しかいない世界ではない、ということです。一つの型にはまらないと無理、というわけではありません。
入口で問われるもの
馬の扱いや競馬の知識は、入ってからの研修や日々の業務で身についていきます。
- 馬の経験は「あると有利」だが「必須」ではない
- 競馬好きで入る人もいれば、最初は馬を知らなかった人もいる
- 臨床の腕だけでなく、研究の力でも評価される
「馬術部じゃないから」で夢を閉じないでください。確かに有利な人はいますが、扉が閉まっているわけではありません。
なるためのルートと、いま動ける一歩
特別な裏ルートはありません。
基本は、ふつうの獣医師になる道がベースです。
- 獣医大学(6年)を卒業し、獣医師国家試験に合格する(=獣医師免許を取る)
- 就職先ごとの採用試験・選考を受ける
- JRA … 獣医職の採用選考。新卒だけでなく、臨床経験者の枠もあります(JRAでは「入社」ではなく「入会」と言います)
- 地方競馬・生産地の団体・民間 … それぞれの求人に応募
注意したいのは、馬の獣医師の求人情報は、犬猫の動物病院ほど表に出てこないこと。
馬の臨床獣医師さんも「新卒採用の情報はあまり広まっていないので、学生が自分で各団体のホームページを確認する必要がある」と指摘しています。
だからこそ、早めに動いた人が有利です。
いま動ける一歩(学生向け)
| やること | なぜ効くか |
|---|---|
| JRAや各団体の採用ページを定期的にチェック | 情報が少ない分、見逃さないことが大事 |
| 馬の現場を一度見にいく | 生産牧場やトレセンの実習・見学で、リアルが分かる |
| 大動物(牛・馬)の臨床実習を経験しておく | 大動物の扱いに慣れておくと、入ってからの土台になる |
獣医師免許を取るまでの流れや、公的機関で働くイメージは、公務員獣医師の記事とも共通点が多いです。
年収はどれくらい?(具体的な数字)
気になるお金の話。
公表されている数字をもとにお伝えします。
| 区分 | 年収の目安 |
|---|---|
| JRA 事務・技術職の平均 | 約859万円(有価証券報告書の公表値) |
| JRA 獣医職種の平均 | 約1,080万円(平均年齢43歳前後・ベテランや管理職も含む) |
| 獣医職の初任給 | おおよそ月25万円ほど |
ここで誤解しないでほしいことがあります。
「獣医職の平均が約1,080万円」は平均年齢43歳・ベテランや管理職も含めた平均だということ。
新人がいきなりこの額になるわけではありません。
それでも、初任給25万円スタートで、安定した組織でしっかり昇給していけるのは大きな安心材料です。
最新の金額は、JRAの募集要項で確認するのが確実です。
大動物を診る獣医師全般の「働き方とお金」のイメージは、産業動物臨床の記事も参考になります。
やりがいと、覚悟しておきたいこと
憧れだけで飛び込むと「思っていたのと違う」となりやすい。
だから、良い面も大変な面も書きます。
やりがいは、現役職員の方のこの言葉に表れています。
無事にレースを走っている姿をみると、たまらなく嬉しい気持ちになる。プレッシャーはあるが、同時に責任感とやりがいを感じられる仕事。
自分が支えた馬が、元気にターフを駆ける——これはこの仕事ならではの喜びだと言われます。
覚悟しておきたいことは、次の通りです。
| 大変なこと | 中身 |
|---|---|
| 早朝・休日 | 朝6時出勤、土日は競馬開催。生活リズムは独特になりがち |
| 体力と危険 | 相手は500kgの大動物。ケガのリスクは小動物臨床より大きい |
| 精神的な負担 | 「判断ミスが命取りになることもある」と職員が語るほど、責任の重い場面がある |
忙しさに、はっきりした波があります
これは聞いてみて驚いたところです。
馬の臨床は、季節によって忙しさがまったく違います。
- 繁殖シーズン——死ぬほど忙しい、という言い方をされました
- 仔馬が生まれるシーズン——ここも同じく忙しい
- そのほかの時期——落ち着く
牛の診療のように年中おなじペースで回るのではなく、山と谷がはっきりしています。生活設計をするうえでは、ここを知っておいたほうがいいです。
怪我のリスクは、牛より大きいです
同じ大動物でも、牛と馬では危険の質が違います。

ゆっけ
馬の去勢手術を見学したことがあります。正直に言うと、蹴られたら終わりだなと思いました。
牛も蹴りますが、馬の後ろ足はけた違いです。当たりどころによっては、それだけで働けなくなります。
産業動物の経験がある人でも、馬は別物として構え直す必要があります。

ワン
体力も覚悟もいるお仕事ですね。でも、入り方が1つじゃないと分かって勇気が出ました…!

ゆっけ
その気持ちがあれば大丈夫、馬の経験より「馬と人のために誠実に向き合えるか」のほうがずっと大事です。
まとめ:入口は1本ではありません
- 馬の獣医師の働き方はJRA・地方競馬・生産地の団体・乗馬クラブなど民間の4つ
- 馬術部や特定の大学が有利な傾向はあるが、そうでない職員もたくさんいる。臨床だけでなく研究の分野もある
- ルートに裏道はない。獣医師免許を取り、各団体の採用選考を受けるだけ
- ただし求人情報が表に出にくい。採用ページを自分で定期的に見る必要がある
- JRA獣医職の平均は約1,080万円。ただし平均年齢43歳・管理職込みの数字で、初任給は月25万円ほど
- 覚悟しておきたいのは早朝と休日出勤・判断の重さに加えて、繁殖期と出産期の忙しさの波と、牛より大きい怪我のリスク
気になったら、まずは現場を一度見にいってください。
そこで「やっぱりいいな」と思えたら、もう第一歩は踏み出しています🐾





