
ワン
ゆっけさん、「獣医師でよかった」シリーズ、今日は産業動物編ですね。これはゆっけさんの本職だったところ…!

ゆっけ
そう、ここは私自身が5年間どっぷりやった現場。九州の診療所で、プロボックスに薬を積んで、1日100km走って牛を診てきました。 だから今日は同期の話ではなく、全部、私の実体験で書きます。

ゆっけ
先に正直に言うと、体はバキバキになるし、つなぎには悪露のにおいが染みつくし、夏は地獄のように暑い。きれいな仕事ではありません。 でも5年間、私はわりと好きでやっていました。「この仕事でよかった」と思える瞬間が、産業動物にはちゃんとあるんです。
産業動物臨床ならではの「よかった」

ゆっけ
まず、5年やった私が感じた「よかったこと」を並べてみます。

ワン
「命を取り上げる」…小動物とも公務員とも、ぜんぜん違う「よかった」ですね。

ゆっけ
そうなんです。産業動物の「よかった」は、生と死の両方に、素手の距離で関わるところから来ている。順番に話します。
夜中の難産——いちばん忘れられない瞬間

ゆっけ
総論でも少し書きましたが、ここではもう少しだけ詳しく。 ある冬の夜中、当直の電話が鳴りました。「牛の難産。子牛が出てこない」。

ゆっけ
暖房の効いた布団から、氷点下の牛舎へ。手がかじかむ中で母牛と格闘して、ようやく子牛を引き出したときには、ぐったりして動かない。 藁でこすって、呼吸を確認して、見守って——しばらくして、その子が自分の力で立ち上がって、お乳を飲み始めたんです。

ゆっけ
その様子を隣でずっと見ていた農家さんに、「先生のおかげや」と握手されました。 当直明けでヘトヘトでした。でも、あの一瞬で「この仕事をやっていてよかった」と心から思えた。自分の手の中で、命がこっち側に残ってくれた——産業動物臨床には、そういう夜があります。

ワン
…聞いてるだけで、ちょっと鳥肌が立ちました。
農家さんとの距離が、とにかく近い

ゆっけ
産業動物臨床の日常は、派手じゃありません。半径30〜40kmのエリアを1日8〜10件、ひたすら巡回する毎日。 でもその繰り返しの中で、農家さんとの関係がどんどん深くなっていくんです。

ゆっけ
技術と同じくらい、農家さんと世間話ができることが大事な世界です。牛の話のついでに、天気の話、子どもの話、集落の話。 その積み重ねの先に、「先生に診てもらいたい」と名指しで呼ばれる日が来る。地域の一員として頼られる感覚は、産業動物ならではの宝物です。
「食」を支えているという、静かな誇り

ゆっけ
産業動物獣医師が診ているのは、ペットではなく経済動物です。牛が病気になれば、農家さんの収入が直接減る。 つまり私たちの仕事は、動物の命と、農家さんの暮らしと、みんなの食卓を、同時に守る仕事なんです。
- 乳房炎を治す → その牧場の牛乳が、また店頭に並ぶ
- 子牛を取り上げる → 数年後、その子が日本の畜産を支える
- 病気を早く見つける → 農家さんの経営が守られる

ゆっけ
スーパーで牛乳やお肉を見かけると、今でも思います。この裏には、農家さんと、それを支える獣医師がいる。 自分がその一員だったことは、派手じゃないけど、静かに誇れることです。
意外と語られない「よかった」——オンオフと開放感

ワン
でも産業動物って、夜中の呼び出しとか、体力的にきついイメージが強いです…。

ゆっけ
きついのは本当(笑)。でも誤解されがちな「よかった」が2つあります。 1つ目は当直制がきっちりしていたこと。私の診療所では「今日は◯◯先生の当直」と分担が明確で、当直じゃない日は呼び出しゼロ。休む日は本当に休めました。

ゆっけ
2つ目はフィールドの開放感。診察室という閉じた空間ではなく、空の下、九州の田舎道を走りながら働く。農場から農場への移動時間が、ある種のリセット時間になっていました。 昼は冷えたプロボックスのシートで15分の昼寝。自分のペースで1日を組み立てられるのは、外回りの仕事ならではでした。
正直、しんどい。でも続けられた理由

ゆっけ
しんどい面も、隠さず書きます。夏は熱中症の牛への点滴で補液が尽きかけ、冬は氷点下の分娩対応で手の感覚がなくなる。においは染みつくし、車内飯が基本だし、体力はゴリゴリ削られる。

ゆっけ
それでも5年続けられたのは、「自分の手で動物の命に関わっている」という手応えが、毎日の現場に確かにあったから。 しんどさと引き換えにしても、あの手応えには価値がありました。
まとめ:あなたが取り上げた命が、どこかで生きている
- 産業動物の「よかった」は、命を取り上げる瞬間・農家さんとの絆・食を支える誇り
- 当直制の明確さや、フィールドの開放感という意外な働きやすさもある
- しんどさは本物。でも**「この手で救った」という手応え**も本物

ゆっけ
いま産業動物の現場で頑張っているあなたへ。泥だらけのつなぎも、染みついたにおいも、ぜんぶ誰かの食卓と、どこかの牧場の朝を支えている証拠です。 あなたが取り上げた子牛は、今もどこかで生きています。たまには、そんな自分を誇ってください🐾

ゆっけ
それでも「もう体がもたない」「限界かもしれない」と感じたら、無理は禁物です。続けることだけが正解じゃない。自分の心と体を守る選択も、同じくらい大切にしてくださいね。
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